昨年もいろいろと大変な一年でしたがみなさまのおかげをもってこうしてまた新しい一年を迎えることができましたことに、まずは感謝申し上げます。
今年こそは明るい一年になるといいですね。
年末年始のバタバタにかまけて新しいお酒を試してみることをしなかった中で、新年の初めにこれまで飲んでみたいと思っていたお酒を飲むことができました。
それは「日日」であります。
醸造元は日々醸造さん、杜氏は松本日出彦さんです。そう「澤屋まつもと」の杜氏をされていた方です。
2020年に松本酒造を退社され、2021年に日々醸造を立ち上げ、2022年の初出荷という本当に新しい酒蔵です。
松本酒造を退社された経緯や実情は、いち消費が知り由もありませんし邪推するものでもありません。
そのお酒を味わう上で必要な情報は、あくまでもそのお酒にまつわる情報であるのであまり興味もありません。
お酒の「情報」というのは、使用米や使用酵母、醸造方法などの基本スペックはもちろん、そのお酒がどういう思いや信念で造られているのか、どうイメージして造られているのかという部分も含めての情報ではありますが、それ以外の情報は逆に色眼鏡になってしまいます。
一部の日本酒好きの方にあまりいいイメージのないかもしれない「獺祭」ですが、「杜氏を置かない、近代的な設備の通年醸造の山田錦の純米大吟醸のみ」という情報は「こだわりのない大量生産」のお酒というイメージがあるかもしれませんが(実はそれが大きなこだわりでもあるのですが)、あのクオリティのお酒をあの価格でというのはまさしく革新的なことであったし、日本酒人口のすそ野を広げるという大きな功績もありました。
「獺祭」の話は少し違うかもしれませんが、「情報」というのは例えそれが正しくとも間違っていても、その判断をすることに必要でない情報は判断を誤らせることがあるし、あくまでも判断した上での確信に至る補強材料でしかないと思っています。
あくまでもそのお酒の評価はその品質よるわけですが、香りや味覚は主観評価であってそれにどこまで客観性を持たせることができるのかというのがその「価値」を決めるうえで重要になってきます。「価値」を決めるという部分では、ワインのように長い年月をかけて蓄積され確立された価値評価の基準があったりするわけですが、日本酒の場合にそのお酒の「価値」を決める客観的な物差しは今のところ存在しないので、あくまでも相対的な「評価」をすることしかできないので、その「情報」というものがとても重要であったりします。であればこそ「情報」の選択はとても大切です。
「飲んで美味しければいい」というのはベターな飲み方ではありますが、我々は酒蔵や酒販店さんではないもののお客様にお酒を提供する側の立場として「飲んで美味しければいい」スタンスでは無責任でもあります。
そのお酒の本質を理解してそれを料理と一緒に、適切な提供を行うのが仕事でもあります。
前置きがやたらに長くなりましたが、松本日出彦さんが日々醸造を立ち上げて新しく造り上げた「日日」。
第二期醸造分になるのでしょうか、東条産山田錦のものを味わいました。
結論から言うと私のようなレベルの味覚では「よくわからない」というものです。
上立ちの香りはかなり控えめではありますが果実的というよりはゼラニウムのようなどちらかといえば微かな花の香りにお米の柔らかい含み香というようなニュアンス、口に含むと微発泡感も感じますが山田錦で伏見のお酒にしては意外と酒質も硬い。若干、低アル仕様にしている影響もあるのでしょうか。とにかく繊細な味わい、、、いや線が細いというか。繊細過ぎて私のレベルでは何とも言えない。
後半に感じる酸は確かに新政仕様な気もしますが、それも新政ほど溌剌としたものではない。当然余韻といえる感じでもない。んー、とても難しいお酒。何と合わせるといいのかイメージがわかない。
少し温度を上げて10度~12度くらいでどう変わるか試してみるも大きな変化はなし、時間をおいて翌日飲んでみるもさらに線が細くなった気が、、、。
松本酒造を退社後、新政さんやせんきんさん、七本槍の冨田酒造さんという中々個性派の酒蔵でプチ修業をされたとういことだったのでその辺がどう影響してくるのか楽しみではありましたが、「澤屋まつもと」(特にUltra)も確かに、繊細であまり個性のないお酒であるので、やはり基本は「澤屋まつもと」なのでしょう。「澤屋まつもと」はいい食中酒であることをコンセプトとしているので、そう思って味わえばまだ理解できる部分もあります。ただ「澤屋まつもと」にない「日日」の酸は出汁などと合わせるのは少し違う気もするし、肉や脂ののった魚と合わせるにはちょっと弱い。海老や白身の揚物(天ぷら)を塩なら、、、それならもう少し吟醸香が欲しい。酢の物やポン酢系なら、麹香なり旨味が足りない。
やはりお酒単体で味わうのがいい感じでしょうか。それであれば飲食店向きではないのかもしれない。
美味しいのは間違いないのですが、いや本当に繊細過ぎる。
「元澤屋まつもとの杜氏さん」「新進気鋭の杜氏が心機一転造り上げたお酒」「あの新政やせんきんさんで修業した」など、散々「情報」の取捨の大切さを語りながら様々な情報に振り回されて訳が分からなくなっている自分。
日本酒を味わうのは本当に難しい・・・と感じた年の初めでした。