蕪屋地酒情報

冷蔵庫の中にも三年

2020年、言わずと知れたパンデミックで奪われた日々。それから3年。ようやく日常を取り戻しつつある2023年、この非日常の3年を冷蔵庫の中でただただ眠っていた日本酒のお目覚めです。

「鍋島」大吟醸(山田錦)です。

毎年、年末に入れて年末年始にリストオンする鍋島の大吟醸。2019年の年末は鍋島の純米大吟醸(山田錦と愛山)と大吟醸(4合瓶と1升瓶)を仕入れ、年末に大吟醸の1升瓶以外を提供しましたがどれも相変わらずの美味しさの中、大吟醸のレベルの高さに特に感動。年始に出そうと思っていたところでパンデミックが起こりほとんど営業らしい営業のできない状態に。それならいっそ、熟成させようと思い熟成保存リスト入り。

そして時は過ぎ、今年9月にコロナ禍以3年ぶりに来ていただいた日本酒(鍋島)好きなお客様に、この失った3年の月日を呑んでいただこうと封切り。

開けてグラスに注いでいると瞬間に、鍋島の華やかな香りが部屋中に広がり、「ああ鍋島だ、、、」と一同感動。「この芳香剤があったら欲しい」とポツリ。

グラスに鼻を近づけると、なんとも官能的なフルーティーな甘さのある甘美な香り、そしてそれは全く嫌味でない優しい香りでもありずっと匂いを嗅いでいたい気持ちになる香り。

口に含むと、鍋島独特のトロピカルな甘味がじわじわと上がってきて穏やかな酸と一緒に消えてゆき、鼻から抜ける香りと余韻だけが心地よく続く。3年熟成させた熟成感(老化)は全く感じられない。熟成させていない同じ鍋島との違いは、熟成酒の方がやや口当たりと含んでから数秒遅れてくる旨味がまろやかに感じられるのと、なんといっても鍋島の吟醸香と甘味の一体感がより強く感じられること。この激動の3年の時間を思えば感動はひとしおではないですか・・・。なんとも感慨にふけっています。

今回の鍋島は熟成してよかったお酒でしたが、どれでも熟成すればいいというもではありません。「熟成して美味しくなる酒」「熟成して新しい一面を見せてくれる酒」であることが大切です。その前提としてアミノ酸量や酒質自体が「熟成に耐えうる酒」というものがありますが、自家熟成の場合は設備や環境条件からしても「常温(室温)」での熟成はリスクが大きいのでやはり冷蔵(5度前後)での熟成となるので、2~10年くらいの熟成では基本的には未開封であれば大きく色が変わったり酒質が変化するということはありません。あくまで今回の鍋島のように若干まろやかになったり、香りと味わいの一体感であったり、燗上がりするかとか微妙な変化を愉しむ一つの方法という程度です。

そんな中でも実際飲んでみて「寝かせてみたい」と思って熟成させてみても、成功だと思えるのは半分程度でしょうか。もちろん前述したとおり冷蔵熟成なので失敗したと言っても不味くなったりすることはほとんどありませんが、熟成させて良かったと思えるのは半分くらいです。残りの半分は、美味しくてもやはりそのお酒の個性や良さが無くなってしまっていては意味がないわけで、そういう意味でも日本酒の熟成というものはまだまだ難しいですね。

日本人は昔から「新酒」「新茶」「新〇〇」など新物をありがたがります。それは穢れを嫌う神道の影響かもしれませんし、新しいものには生命力というか何かみなぎるような「力」を感じることができます。その「力」取り込むことで新たな活力を頂いているのでしょう。そして古くなるとその「力」が弱くなると考え、古いものにあまり価値を見出してこなかった面があります。今でも日本酒も基本的にはできた時点が完成形で一番ベストな状態であることがほとんどです。そこが初めから熟成させることを前提に造るワインとの違いでもあります。しかし、最近では飲み方の多様性から熟成させることを前提とした日本酒もあります。(「義侠」さんのように昔からがっつり熟成酒を扱っている蔵もありますが)

日本酒は世界の酒の中でも最も幅広い温度帯で飲まれるお酒だと言われています。そんな日本酒だからこそ、熟成酒の味わい方ももっと広まってほしいと思い今日もいい(熟成酒向きの)酒はないかという理由で、日本酒を「味見」するのでした。

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