山形の東北銘醸の「初孫」。山形では随一の生産量を誇る蔵でありながら、生酛造りにこだわり続ける蔵でもあります。生酛(山廃を含めて)は、どうしてもある程度の自然の影響を受けてしまう。つまり、毎年、いやタンクごとに多かれ少なかれ違いが出るはず・・・と考えてしまうのは素人考えなのかもしれませんが。
しかし毎年、いつ飲んでも「初孫」は「初孫」です。ワインのように、「今年はブドウが・・・」「醸造過程の気温が・・・」などの理由で、毎年味わいが違うのも楽しみではあります。グランヴァンのように品種の割合を微妙に変えることでクオリティを保ったり、目指すクオリティに達しなければそのヴィンテージは出さなかったり、それぞれのこだわりと技があります。
ただ「初孫」は、いつも当たり前に「初孫」としてそこにあります。これはとてもすごいことで、うれしいことです。
今回ここで挙げた「初孫 魔斬 純米大吟醸(黒魔斬)」は、初孫の新商品です。当店にとっての初孫は開店時から扱いっていた「魔斬 生酛純米」だったので、あの魔斬の純米大吟醸とはどんな味わいなのかと思いを巡らせて飲んでみます。
・・・「初孫は初孫」でした。すごい初孫でした。“純米大吟醸”という、華やかな香り、フルーティな甘み、色々そのイメージに固定されていました。“初孫”のイメージが抜け落ちていた自分が恥ずかしい・・・。
香りは華やかさというより生酛感に少し吟醸香が合わさった程度に控えめで、口に含めばどこまでもシャープできれっきれのドライな味わいなのに、生酛由来なのかふんわりとした味わいが心地いい余韻もある。
まさに私の知っている「初孫 魔斬」の純米大吟醸なんだと飲んで思い知らされる。
美山錦だから、50%精米だから、そんな固定観念は必要ありません。純米大吟醸であることに意味があるのではない、初孫であることこそが本質なんですね。
今流行りの純米大吟醸、いや日本酒なんてまるで眼中にないかのような、我が道を行くまさに“酒王”初孫。
同じく新商品の「赤魔斬」にも感嘆。そしてまたいつかじっくり取り上げたい「初孫 秘蔵」。
造り手の変わらぬ信念と技術によってそのかたちであり続ける「初孫」は、まるで故郷のように変わらずにそこにあり続けてくれるお酒でした。