青森の西田酒造さんといえば、日本酒好きなら誰もが知っているあの「田酒」の蔵元さんです。田酒はスタンダード(通年商品)の特別純米と季節商品の純米吟醸と純米大吟醸があり、お米の違いや麹の違いなどで様々な種類のお酒がありますが「田酒」そのものはすべて純米酒です。そして「喜久泉」などの吟醸酒などのいわゆるアルコール添加(以下、アル添)したお酒もありそのラインの最高峰が「善知鳥(大吟醸)」というお酒です。
読みは「うとう」です。海鳥の仲間で、西田酒造のある地域がかつて「善知鳥」が生息していて「善知鳥村」と呼ばれていたことがあったからだとか。
「善知鳥」も山田錦を使ったものと青森の酒米華想い(青系140号)を使ったものがありますが、蔵の位置づけとしてはやはり山田錦を上位に持ってきています。今回は久しぶりに善知鳥の山田錦と田酒の純米大吟醸(斗壜取)を飲み比べる機会がありました。
ともに山田錦の40%精米という同じスペックで2020年醸造分となるわけですが、(少なくとも”今回飲んだ2020年”という注釈を付けた上で)個人的には「善知鳥」の美味しさが際立ちました。
なにが違うのかといえば、全体のバランスとアルコールの質だと感じました。当然の前提として両方ともとても優れたお酒であることは間違いがありません。そして同じ蔵が作る同じスペックのお酒であり味わいのベクトルも同じだと感じます。そして斗壜取りは鑑評会出品酒として造られている側面もあるので封切りのインパクトは善知鳥の比ではありません。ただその刹那的な吟醸香が無くなったあとのお酒としての骨格という部分で、「善知鳥」というお酒のバランスとアル添の妙を感じずにはいられません。
決して派手ではないものの明克な吟醸香は純粋なカプロン酸エチル(リンゴ様)で、口に含んでからじわじわで湧き上がる甘みが皮をむいて食べる巨峰のようで、その後に梨のような瑞々しい甘さ、そして体になじむようなナチュラルなアルコール感がきれいに後味をまとめてくれる。心地いいんですね。
一方の田酒の斗壜取りは、香りはもちろん鮮烈で酢酸イソアミル(バナナ様)のニュアンスも感じるしっかりとした上立ち、そして鑑評会出品酒にありがちな香りだけのお酒ではなく「田酒」らしく旨味も乗りかつ上品な仕上がりはさすがなわけですが、個人的には後味の若干の苦味(えぐみ)がどうしても飲んでいて気になりました。香りもしっかりあり、旨味のそれなりに乗っている上品な後味の最後にえぐみを感じるとどうしても飲んでいて違和感が大きくなっていきます。日本酒において、特に純米酒における苦味は旨味の一部であるのですが、その苦味は様々なアミノ酸が織りなす雑味でありアルコールのえぐみではなと思います。そういう意味で「善知鳥」のバランス感はやはり秀逸です。
近年、「純米酒」が善で「アル添」が悪という風潮がありますが、現在の日本酒造りにおけるアル添は決して後ろ向きのものではなく造り手の高い技術によって生み出される高品質で伝統的な酒造りでもあります。(アル添の実用的なメリットなどはここでは省かせていただきますが。)「アルコール添加」という言葉のニュアンスで自然派志向の人からは嫌われ、かつて三増酒(粗悪な混合酒)で悪酔いした世代の人たちからはアレルギー反応を起こされている現状ですが、現在の吟醸酒や大吟醸はそれらとは全く違うものだということをご理解していただければ、日本酒の味わい方も2倍になります!
今回の田酒と善知鳥はどちらがいいと言うものでもなければ、出品酒と比べるのもというのもありますが、同じ蔵のスペックのお酒の比較という部分だけの飲み比べで、改めて大吟醸酒のすばらしさを感じたところでありました。
田酒そのものについては、最近特にたくさん種類が増えて全然把握しきれていませんが、スタンダードの特別純米については20年以上飲み比べてきて、比較的毎年味わいが異なる部類のお酒ですし、酒質という部分でも少なくとも過去2.3度大きな変化がありました。段々年を重ねると、「昔がよかった」という感覚が大きくなるのでしょうか、田酒も飲み始めの頃の酒質がどの温度帯でも良さが出てよかった気もしますが、今は今で5.6年前のきれい過ぎるところから元の田酒「らしさ」が相まってNEWスタンダードといったイメージです。
今後も秀逸な「アル添酒」をご紹介できればと思っています!